経営事項審査W点(その他・社会性等)を徹底解説|点数アップの具体策と実務チェックリスト

建設業を営む皆さま、経営事項審査(以下、経審)の準備は進んでいますか? 経審は、公共工事を受注するために欠かせない重要な手続きです。その中でも、**W点(その他・社会性等)**は、企業のコンプライアンスや社会貢献度を評価する項目として、年々その重要性を増しています。
このW点は、経審全体の評価点のうち**15%**を占める重要な要素です。つまり、W点の点数アップは、会社の総合評価点アップに直結し、結果として受注できる工事の幅を広げることにつながります。
「うちは技術力があるから大丈夫」「W点ってどうせ大した点数にならないのでは?」と考えていませんか? それは大きな間違いです。W点の対策を疎かにすると、総合評価点で他社に差をつけられ、大きな機会損失につながる可能性があります。
この記事では、経営事項審査のW点について、その評価項目から点数アップの具体的な施策、そしてすぐに使えるチェックリストまで、建設業に特化した行政書士の立場から徹底的に解説します。この記事が、あなたの会社の経審対策に役立つことを願っています。
📝 目次
W点とは何か?(概要と点数割合)
W点(その他・社会性等)は、経営事項審査における企業のコンプライアンスや社会貢献度、働きやすさを客観的に評価する項目です。具体的には、労働環境の整備や法令遵守、技術力の向上に向けた取り組みなどが評価されます。
経審の総合評価点(P点)は、以下の4つの要素で構成されています。
- X1(完成工事高): 工事実績を評価
- X2(自己資本額・平均利益額): 財務状況を評価
- Y(経営状況): 負債や流動比率などの経営状況を評価
- Z(技術力):技術者の数や資格、工事経歴などを評価
そして、これらに加えて、企業の社会性や法令遵守を評価するのがW点です。
総合評価点に占めるW点の割合は15%です。これは、完成工事高や技術力といった主要な項目と比べると少なく感じるかもしれません。しかし、裏を返せば、このW点は比較的容易に点数を伸ばせる項目でもあります。
例えば、完成工事高(X1)を大きく伸ばすには、何年もかけて大規模な工事を多数こなす必要があります。しかし、W点の点数アップは、後述する社会保険への加入や退職金制度の導入、さらにはISOの取得といった、比較的短期間で実施可能な取り組みによって実現できます。
**「経営事項審査 W点」**を理解し、適切に対策を講じることが、ライバル企業に差をつけるカギとなります。

W点の評価項目一覧
W点の評価項目は多岐にわたります。ここでは、主要な評価項目を解説します。
雇用保険・健康保険・厚生年金保険の加入状況
建設業における社会保険の加入状況は、W点の中でも最も重要な評価項目です。従業員の雇用環境を整えているかを評価するものであり、未加入の場合は一つの保険にあたり点数-40点これがW点換算では-350点、最終P点には-52.5点の影響が出てきます。これには保険の種類別に評価されますので雇用保険・健康保険・厚生年金保険と3つ未加入の場合はー52.5点×3種類=ー157.5点の減点になりますので注意が必要です。
[実務事例] 社会保険に未加入の状態で経審を申請しようとしたところ、審査機関から指摘を受け、申請が受理されないケースが多々あります。建設業許可を持っていたとしても、経審の際にはこれらの加入が厳格にチェックされます。すべての従業員を適正に加入させているか、必ず確認しましょう。
建設業退職金共済制度への加入状況
**建設業退職金共済制度(建退共)**への加入も、W点の評価対象です。これは、建設業で働く労働者の退職金を確保するための制度であり、企業の福利厚生への意識を評価するものです。加入している企業はP点を19.7点アップさせる加点対象となります。
退職一時金制度または企業年金制度の導入
建退共以外に、自社独自の退職金制度や企業年金制度を導入している場合もP点を19.7点アップさせる加点対象となります。従業員の長期的な雇用を促し、安定した労働環境を提供している企業として評価されます。
法定外の労災補償制度への加入状況
法定外の労災保険、例えば上乗せ労災保険などに加入している場合も評価されます。これは、万が一の事故に備えて、法定以上の手厚い補償を従業員に提供している企業として、社会性が高いと判断されるためです。加入している企業はP点を19.7点アップさせる加点対象となります。
・法定外労災補償制度について注意が必要なことは、次の全ての要件に該当する場合に限り、評価の対象となります。
a 業務災害及び通勤災害のいずれも対象であること
b 職員及び下請負人の全てが対象であること
c 死亡及び障害等級第1級から第7級までが対象であること
d 全ての工事現場を補償していること
労働福祉の状況(女性活躍・育児休業・若者採用育成)
育児休業などの労働福祉に関する取り組みも評価対象です。特に、女性・若者が安心して働き続けられる環境を整備している企業は、今後の技術者不足を乗り越える上で重要視される傾向にあります。具体的には、えるぼし・くるみん・ユースエール等の認定取得によりそれぞれ、加点の対象となります。
営業年数
企業の営業年数もW点の評価項目です。長年にわたって事業を継続していることは、経営基盤の安定性や社会からの信頼を証明するものです。
防災協定の締結
自治体などと災害時の防災協定を結んでいる場合、地域社会への貢献度が高いと評価され、加入している企業はP点を26.3点アップさせる加点対象となります。
ISOの取得状況
**品質マネジメントシステム(ISO9001)や環境マネジメントシステム(ISO14001)**などのISO認証を取得している場合も、P点で各6.6加点されます。
[実務事例] ISO取得は、企業の品質管理や環境配慮への意識の高さを客観的に証明するものです。書類審査の際も、ISO認証書を提出することで、加点を受けることができます。ISOの取得は、点数アップだけでなく、企業の信頼性向上にもつながります。しかし、コストと手間もかかりますので企業の方向性に沿った慎重な判断が必要でしょう。
若年技術者および技術職員の育成状況
若年技術者(審査基準日翌日時点で満35歳未満)や技術職員の育成に積極的に取り組んでいる企業も評価対象となります。
・審査基準日時点において、若年技術職員(審査基準日翌日時点で満35歳未満)の人数を確認します。
・若年技術職員(審査基準日翌日時点で満35歳未満)の人数が技術職員の人数の合計の15パーセント以上である場合、評価対象(P点を1.3加点)となります。
・審査基準日時点において、若年技術職員(審査基準日翌日時点で満35歳未満)のうち、審査対象年において新規に技術職員となった人数を確認します。
・若年技術職員(審査基準日翌日時点で満35歳未満)のうち、審査対象年において新規に技術職員となった人数が技術職員の人数の合計の1パーセント以上である場合、評価対象(P点を1.3加点)となります。
評価項目まとめ
W点は、単に売上や技術力といった表面的な強さだけでなく、企業の「人」や「社会」に対する姿勢を総合的に評価する項目です。このW点の点数アップを目指すことは、結果として企業のブランドイメージ向上にもつながります。
W点を上げるための具体策
ここからは、W点の点数アップに直結する具体的な施策を、実務に即して解説します。
1. 社会保険の適正加入を徹底する
これが最も基本的であり、かつ重要な対策です。
- 全従業員の加入状況確認: 正社員はもちろん、特定の条件を満たすパート・アルバイトも加入対象となる場合があります。未加入者がいないか、今一度確認しましょう。
- 未加入者の速やかな手続き: 未加入者がいる場合は、速やかに手続きを進めてください。経審の申請時期に間に合うように準備することが大切です。
**「その他・社会性等」**を評価する上で、社会保険の加入は企業の義務であり、それが評価のスタートラインであることを理解しましょう。
2. 建設業退職金共済制度(建退共)に加入する
まだ加入していない場合は、これを機に加入を検討してください。P点を19.7点加算することができます。
- 手続きの簡便さ: 加入手続きは比較的簡単です。必要書類を行政機関に提出するだけで、従業員に安心して働いてもらえる環境を整備できます。
- 長期雇用へのインセンティブ: 建退共への加入は、従業員の長期雇用を促すインセンティブにもなります。
3. 法定外労災保険や独自の退職金制度を導入する
- 上乗せ労災保険への加入: 建設現場での事故は、法定労災だけではカバーしきれないケースもあります。従業員への安心を提供するためにも、上乗せ労災への加入を検討しましょう。P点を19.7点アップさせる加点対象となります。
- 企業年金制度の導入: 従業員の将来の生活を保障する企業年金制度は、W点だけでなく、人材確保の面でも大きな武器になります。P点を19.7点加算することができます。
4. ISO認証の取得を検討する
ISO取得は時間と費用がかかると思われがちですが、長期的に見れば大きなメリットがあります。
- 品質管理体制の整備: ISO認証のプロセスを通じて、自社の品質管理体制を見直すことができます。
- 営業面での優位性: ISO認証は、取引先や発注者に対する信頼の証にもなります。**「ISO取得」**は、企業の信頼性を高める上で非常に有効です。
- それぞれ、P点を6.6点加算することができます。
5. 若手技術者の育成計画を立てる
- 新卒採用の積極化: 今後の人手不足を見据え、計画的に若手技術者を採用し、育成する体制を整えましょう。
- 技術者・技能者のCPD単位取得:キャリアアップシステムCCUSを導入しているなら、技能者のレベルアップと技術者のCPD取得も積極的に取り組んでいく。
これらの具体的な施策を実行することで、「経営事項審査 W点」の点数を着実に点数アップさせることができます。
W点 実務チェックリスト
自社のW点対策がどの程度進んでいるか、以下のチェックリストで確認してみましょう。
| 項目 | 確認内容 | 現状 | 対策 |
| 社会保険 | 1. 従業員全員が雇用保険に加入しているか? | □はい □いいえ | 未加入者がいれば即座に手続きを行う |
| 2. 従業員全員が健康保険・厚生年金保険に加入しているか? | □はい □いいえ | 同上 | |
| 退職金制度 | 3. 建設業退職金共済制度(建退共)に加入しているか? | □はい □いいえ | 未加入の場合は加入を検討する |
| 4. 独自の退職一時金制度や企業年金制度はあるか? | □はい □いいえ | 導入を検討する | |
| その他制度 | 5. 法定外の労災保険(上乗せ労災)に加入しているか? | □はい □いいえ | 導入を検討する |
| 6. 育児・休業制度は就業規則に明記されているか? | □はい □いいえ | 明記し、従業員に周知する | |
| 技術者育成 | 7. 若年技術者(35歳未満)を継続的に採用しているか? | □はい □いいえ | 採用計画を立てる |
| 外部認証 | 8. ISO9001(品質)、ISO14001(環境)などを取得しているか? | □はい □いいえ | 取得を検討する |
| 防災協定 | 9. 地方自治体などと防災協定を結んでいるか? | □はい □いいえ | 検討し、締結先を探す |
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経営事項審査を行政書士に相談するメリット
経審の手続きは、書類作成や申請書の提出など、非常に複雑で専門的な知識が求められます。特に、W点の評価項目は多岐にわたり、自社で正確な点数を把握することは難しい場合があります。
そこで、専門家である行政書士に依頼するメリットは以下のとおりです。
1. 正確かつ迅速な手続き
行政書士は、建設業法や経審に関する最新の情報を常に把握しています。そのため、法令に則った正確な書類を作成し、経審の申請を迅速に行うことができます。
2. 経審の点数アップに向けた具体的なアドバイス
「経営事項審査 W点」に精通した行政書士は、貴社の現状を分析し、どの項目を強化すれば点数アップにつながるか、具体的なアドバイスを提供できます。例えば、
- 「この書類を準備すれば加点されますよ」
- 「この制度を導入すれば点数が上がりますよ」
といった、実践的な助言を受けることができます。
3. 本業に専念できる
経審の準備には多くの時間と労力がかかります。これを行政書士に任せることで、貴社は本来の業務である工事や営業活動に専念できます。
4. 経審後のアフターフォローも万全
経審は一度きりの手続きではありません。毎年継続して行う必要があります。行政書士は、翌年以降の経審も見据えたサポートを提供し、貴社の持続的な発展を支援します。
まとめ
**経営事項審査のW点(その他・社会性等)**は、経審総合評価点の15%を占める重要な項目です。このW点の対策は、単なる点数稼ぎではなく、企業の社会性や労働環境を向上させることにつながります。
この記事で解説した「W点を上げる具体策」や「実務チェックリスト」を活用し、今からでも点数アップに向けた準備を進めてみてください。W点の点数を確実に点数アップさせることは、公共工事の受注機会を増やし、貴社の事業成長を後押しします。
経審のことでお困りでしたら、お気軽に専門家である行政書士にご相談ください。
「W点の計算と評価ポイントはW点(社会性等)の評価と改善ポイント」で確認できます。
確認クイズ(3問)
経審 W点 知識確認クイズ
公共工事受注のカギとなるW点(その他・社会性等)について、記事の内容から3つのクイズを出題します。あなたの知識を試してみましょう!
【第1問】
記事によると、W点(その他・社会性等)は、経審の総合評価点(P点)のうち、何パーセントを占めていますか?
- 5%
- 15%
- 25%
【第2問】
建設業退職金共済制度(建退共)に加入すると、記事によるとP点(総合評価点)を何点アップさせることができますか?
- 19.7点
- 10.0点
- 30.5点
【第3問】
記事で「比較的短期間で実施可能」とされている、W点の点数アップに直結する具体的な対策はどれですか?
- 完成工事高を大幅に伸ばす
- 退職金制度やISO認証の取得
- 従業員を増やす
執筆者情報
執筆者:代表 林 信武(はやし のぶたけ)
所属: NOBU行政書士事務所
プロフィール:
建設業許可・経営事項審査を専門にサポートしていきます。
また、ドローン飛行許可申請・法務相談も多数対応しており、
建設業とドローンの事業者様を支援しています。
日本商工会議所簿記1級を取得しており、法律と会計両方の視点から建設業者様の経営をサポート。
「わかりやすい」をモットーに、法律や会計の難しい内容を噛み砕いて解説させていただきます。


