経営事項審査とは?建設業者が知っておくべき基礎知識と流れ

入札に参加したいけれど「経審」って一体何?何から準備を始めればいいの?
そうお悩みの建設会社経営者の皆様、ご安心ください。
公共工事の入札に参加するためには、この「経営事項審査(以下、経審)」をクリアすることが必須です。経審は準備すべき書類が多く、その手続きは複雑で分かりにくいと感じるかもしれません。しかし、経審を正確に理解し、計画的に進めることで、公共工事という大きなチャンスを掴むことができます。
この記事では、**大阪府の「経営事項審査の手引き」**を参考に、経審の目的、評価項目、手続きの流れ、そして有効期間まで、初めての方でも理解できるように基礎から徹底的に解説します。この記事を最後まで読んでいただければ、経審の全体像を把握し、自社でスムーズに手続きを進めるための具体的なヒントが得られるはずです。
最後に確認クイズを3問用意しておりますのでお試しください。
目次
- 経営事項審査(経審)とは? 🤝
- 公共工事を請け負うためのパスポート
- 経審の「P点」って何?
- 経審の審査基準日と有効期間 📅
- 審査基準日は「決算日」
- 有効期間は「1年7か月」!?
- 審査は早めに行うべき理由
- 経審の評価項目を徹底解説 📈
- 経営規模(X点):完成工事高と自己資本
- 経営状況(Y点):財務分析の8項目を深掘り
- 技術力(Z点):技術者数と元請工事
- その他の審査項目(W点):社会性等
- P点を上げるための具体的戦略 🎯
- 【戦略1】技術力(Z点)を上げる
- 【戦略2】経営状況(Y点)を改善する
- 【戦略3】その他の審査項目(W点)を強化する
- 経営事項審査の申請手続きの流れ 👣
- STEP1:決算変更届の提出
- STEP2:経営状況分析の申請
- STEP3:経営事項審査の受審予約
- STEP4:審査の申請と書類提出
- STEP5:結果通知書の受領
- 申請でつまずかないためのチェックリスト ✅
- まとめ:経審は計画的な準備がカギ 🔑
- 経審に関するご相談は専門家にお任せください 📞
- 確認クイズ(3問)
1. 経営事項審査(経審)とは? 🤝
公共工事を請け負うためのパスポート
「経営事項審査」とは、建設業者が公共工事の入札に参加するために、建設業者としての実力を客観的に証明するための審査です。
建設業法第27条の23に基づき、国や地方公共団体から直接公共工事を請け負う(元請け)建設業者は、必ずこの審査を受けなければなりません。
経審では、単に「工事ができます」というだけでなく、「施工能力」「財務の健全性」「技術力」「社会性」といった多岐にわたる項目を総合的に評価されます。例えるなら、建設会社の「健康診断」のようなものです。この診断結果が「良好」であると認められて初めて、公共工事の入札に参加するための資格を得ることができます。
逆に言えば、経審を受けなければ、どんなに素晴らしい技術を持っていても公共工事の入札には参加できない、ということになります。経審は公共工事という大きな市場に参入するための、まさに「パスポート」なのです。
経審の「P点」って何?
経審の結果は、「総合評定値」として数値で示されます。この数値は、通称「P点(ピーてん)」と呼ばれています。
このP点が、公共工事の入札に参加する際の「点数」となります。多くの発注者(国や地方公共団体)は、このP点に独自の評価(主観的事項)を加えて、建設業者をランク付けし、入札参加資格を与えます。
P点は、以下の4つの主要な評価項目(点数)を組み合わせて算出されます。
- 経営規模(X点)
- 経営状況(Y点)
- 技術力(Z点)
- その他の審査項目(W点)
これらの点数はそれぞれ異なる割合でP点に反映されるため、どの項目を強化すればP点が上がるのかを理解しておくことが、経審対策の第一歩となります。P点の算出式は以下の通りです。
P点 = X1点(年間平均完成工事高)×0.25 + X2点(自己資本等)×0.15 + Y点(経営状況)×0.20 + Z点(技術力)×0.25 + W点(社会性等)×0.15

2. 経審の審査基準日と有効期間 📅
審査基準日は「決算日」
経審で評価される項目は、**申請する日の直前の事業年度の終了日(決算日)**が基準となります。この基準日は、特に「審査基準日」と呼ばれます。
例えば、決算日が令和6年3月31日の会社であれば、その日が審査基準日となります。次の決算日(令和7年3月31日)を迎えると、令和6年3月31日の決算を基準とした経審は受けられなくなりますので注意が必要です。
有効期間は「1年7か月」!?
公共工事の契約を締結する際には、「経営事項審査の審査基準日から1年7か月以内」に有効な総合評定値(P点)通知書を持っている必要があります。
この「1年7か月」という期間が経審の有効期間です。
- 決算日
- 決算変更届の提出
- 経営状況分析の申請
- 経営事項審査の申請
- 結果通知書の受領
という一連の手続きを、この期間内に済ませ、有効な通知書を常に保持し続ける必要があります。
審査は早めに行うべき理由
「決算から1年7か月もあるなら、ゆっくり準備すればいいか」と考える方もいらっしゃるかもしれません。しかし、それは大きな間違いです。
大阪府の「経営事項審査の手引き」にも記載されている通り、公共工事の発注者と契約を結べるのは「有効な結果通知書を受け取った後」に限られます。
もし申請が遅れてしまうと、以下のようなリスクが生じます。
- 公共工事を請け負えない期間が発生する: 有効なP点通知書が手元にない期間ができてしまい、その間に契約を結ぶことができません。
- 希望の入札に参加できない: 入札の公示が出たものの、有効な経審通知書がないために参加資格を満たせず、せっかくのビジネスチャンスを逃してしまいます。
経審の結果通知書が届くまでには、書類の不備などがなければ申請から22日程度かかります。このため、決算確定後、できるだけ早く手続きを進めることが、常に公共工事を受注できる状態を維持するための鍵となります。
3. 経審の評価項目を徹底解説 📈
ここからは、P点に影響する4つの評価項目を詳しく見ていきましょう。
経営規模(X点):完成工事高と自己資本
【評価項目】
- 年間平均完成工事高(X1)
- 自己資本額と平均利益額(X2)
【評価のポイント】 **年間平均完成工事高(X1)**は、企業の売上高に相当し、事業規模の大きさを評価します。この額が大きいほど、点数が高くなります。審査対象となる期間は、決算日から遡って2年間または3年間で選択できます。金額の大きい方を選ぶことで、点数アップが期待できます。 **自己資本額と平均利益額(X2)**は、財務基盤の安定性を見る項目です。自己資本とは、返済不要の資本であり、これが大きいほど経営が健全だと評価されます。
経営状況(Y点):財務分析の8項目を深掘り
Y点は、財務諸表(貸借対照表・損益計算書など)を基に、企業の経営状況を多角的に分析する項目です。 このY点のみ、国の登録を受けた「登録経営状況分析機関」に申請する必要があります。
8つの指標はそれぞれ企業の異なる側面を評価します。
- 純支払利息比率: 支払利息が営業利益に対してどれくらいの割合かを示します。この数値が低いほど、借入金が少なく経営が安定していると評価されます。
- 負債回転期間: 負債がどれくらいの期間で返済できるかを示します。期間が短いほど、財務の健全性が高いと判断されます。
- 売上高経常利益率: 売上高に占める経常利益の割合です。本業での儲けを示すため、高いほど収益性が高いと評価されます。
- 総資本売上総利益率: 企業の総資産がどれだけ効率的に利益を生み出しているかを示します。効率性が高いほど高得点になります。
- 自己資本対固定資産比率: 返済不要な自己資本で、どれだけ固定資産を賄っているかを示す指標です。この比率が高いほど、財務が安定していると見なされます。
- 自己資本比率: 総資本に占める自己資本の割合です。この比率が高いほど、倒産リスクが低く、安全性が高い企業と評価されます。
- 営業キャッシュフロー: 本業でどれだけの現金を稼ぎ出しているかを示す指標です。プラスが大きいほど、経営が順調で自己資金で事業を回せていると判断されます。
- 利益剰余金: 会社に蓄積された利益の総額です。会社の蓄えを示すもので、額が大きいほど企業の体力があると評価されます。
これらの指標は相互に関連しているため、一部だけを改善しても効果は限定的です。バランスの取れた財務改善が求められます。
技術力(Z点):技術者数と元請工事
【評価項目】
- 技術職員数
- 元請完成工事高
【評価のポイント】 技術職員数は、その名の通り、所属する技術者の人数を評価します。資格(1級・2級施工管理技士、建築士など)を持つ技術者が多いほど、高い評価を得られます。 元請完成工事高は、公共工事や民間工事で元請けとして直接受注した工事の実績を評価します。元請けとしての実績は、企業の総合的な施工能力やマネジメント能力を証明する重要な指標です。
その他の審査項目(W点):社会性等
【評価項目】
- 建設工事の担い手の育成及び確保に関する取組の状況
- 労働環境への配慮(雇用保険、健康保険、厚生年金保険への加入状況)
- 建退共(建設業退職金共済制度)の加入状況
- 防災活動への貢献
- 法令遵守の状況
- 建設業の経理の状況
- 研究開発の状況 など
【評価のポイント】 W点は、企業が社会的な責任をどれだけ果たしているかを評価します。従業員の労働環境を整えているか、地域社会に貢献しているか、適正な経理を行っているかなど、企業の「社会性」が問われます。
特に、雇用保険や社会保険の加入状況は、W点の評価に大きく影響しますので、未加入の場合は速やかに手続きを進める必要があります。
4. P点を上げるための具体的戦略 🎯
経審は、単なる手続きではなく、自社の強みと弱みを把握し、P点を高めるための経営戦略でもあります。ここでは、P点アップのための3つの戦略をご紹介します。
【戦略1】技術力(Z点)を上げる
Z点はP点に占める割合が25%と、非常に重要な項目です。
- 技術職員の資格取得を支援する: 1級・2級の施工管理技士や建築士など、評価対象となる資格を持つ技術者を増やすことが最も効果的です。資格取得のための補助制度を設けるなど、積極的に支援しましょう。
- 元請け工事の実績を積む: 公共工事だけでなく、民間工事でも積極的に元請けとして受注を増やすことで、元請完成工事高を伸ばすことができます。
【戦略2】経営状況(Y点)を改善する
Y点もP点に占める割合が20%と高く、財務状況を改善することが重要です。
- 自己資本を増やす: 企業の蓄えである自己資本を増やすことで、経営の健全性が高まります。具体的には、内部留保を増やす(利益を剰余金として蓄積する)ことや、資本金の増資などが挙げられます。
- 経常利益を伸ばす: 本業でしっかり利益を出すことが、すべての財務指標の改善につながります。コスト削減や生産性向上に努めましょう。
- 借入金を減らす: 無理な借入は負債を増やし、Y点の評価を下げます。計画的な借入と返済を心がけましょう。
【戦略3】その他の審査項目(W点)を強化する
- 社会保険の加入を徹底する: 全従業員が雇用保険、健康保険、厚生年金保険に加入していることが、W点を高める上で最も基本であり、必須の条件です。
- 建退共制度を活用する: 建設業退職金共済制度(建退共)に加入していると、点数加算の対象になります。
- 適正な経理体制を構築する: 経審の経理状況に関する評価は、公認会計士や税理士の監査を受けているかどうかなどで決まります。正確な経理を心がけることが大切です。
5. 経営事項審査の申請手続きの流れ 👣
経審の手続きは、以下のステップで進んでいきます。大阪府の「経営事項審査の手引き」にも記載されている通り、すべての手続きを計画的に行うことが重要です。
👇STEP1:決算変更届の提出
事業年度終了後、4か月以内に、その事業年度の工事経歴書や財務諸表をまとめた「決算変更届」を大阪府に提出します。経審はこの届出が完了していることが前提となります。
👇STEP2:経営状況分析の申請
決算変更届の財務諸表に基づき、国の登録を受けた「登録経営状況分析機関」にY点の分析を依頼します。分析機関は複数あるため、どこに依頼するかはご自身で選ぶことができます。
👇STEP3:経営事項審査の受審予約
大阪府の申請会場にある予約簿、またはFAXで、審査を受ける日時を予約します。予約は希望日の2か月前から受け付けが可能です。
予約の際に決算変更届の提出が済んでいることが必須となりますので、必ず先に済ませておきましょう。
👇STEP4:審査の申請と書類提出
予約した日時に、必要な書類一式を持参して申請会場へ行きます。
書類は非常に多岐にわたり、許可申請書(副本)や工事経歴書、技術者の資格証の写し、社会保険の加入を証明する書類など、多岐にわたります。書類に不備がないよう、事前によく確認することが大切です。
👇STEP5:結果通知書の受領
申請書類が受理され、内容の補正が完了した日から22日程度で、総合評定値(P点)が記載された結果通知書が郵送または手渡しで届きます。この通知書を受け取って初めて、有効なP点が確定し、公共工事の入札に参加できるようになります。
6. 申請でつまずかないためのチェックリスト ✅
経審の申請で最も多いのが「書類の不備」です。事前にしっかりと準備することで、スムーズに手続きを進めることができます。
- 決算変更届が提出済みか?: これがなければ、経審の予約も受付もできません。
- 経営状況分析(Y点)の結果通知書は取得済みか?: 経審申請時に原本の添付が必要です。
- 審査手数料は準備OK?: 申請業種数に応じて金額が変わります。
- 工事経歴書に記載漏れはないか?: 工事名、請負金額、工期、発注者、元請・下請の区別など、正確に記載されているか確認しましょう。
- 技術職員の資格は確認OK?: 資格証の写しや、健康保険証、雇用保険被保険者証の写しなど、所属と常勤性を証明する書類が必要です。
- 社会保険の加入状況は?: 雇用保険、健康保険、厚生年金保険の加入が証明できる書類を用意しましょう。
- 申請書類のコピーは取ったか?: 提出前に控え(副本)を必ず作成しておきましょう。
7. まとめ:経審は計画的な準備がカギ 🔑
経営事項審査は、公共工事を受注するために避けて通れない重要な手続きです。 「審査基準日=決算日」であること、そして「有効期間が1年7か月」と限られていることを考えると、いかに計画的に準備を進めるかが成功の鍵となります。
特に、経審の申請書類は非常に専門的で、その量も膨大です。初めて申請する方や、普段の業務で多忙な経営者様にとって、すべての書類を自力で完璧に揃え、手続きを進めるのは大きな負担となるでしょう。
書類に不備があれば審査が滞り、せっかくのビジネスチャンスを逃してしまう可能性もあります。
そんな時こそ、私たち専門家にご相談ください。
8. 経審に関するご相談は専門家にお任せください 📞
経審の申請手続きには、複雑な書類作成や正確な財務分析の知識が不可欠です。
「P点を少しでも上げたい」「必要な書類が多すぎて手が回らない」「経審の流れがイマイチ分からない」
このようなお悩みをお持ちであれば、経審を専門とする行政書士にご相談ください。
私たちは、大阪府の手引きに基づいた正確な情報をもとに、書類作成の代行から、P点アップのためのアドバイスまで、お客様の状況に合わせた最適なサポートを提供します。
ご自身の事業に集中していただくためにも、煩雑な経審手続きは私たち行政書士にお任せください。初回のご相談は無料です。どうぞお気軽にお問い合わせください。
9. 確認クイズ(3問)
経営事項審査(経審)の基礎知識クイズ
公共工事の入札に必須の「経審」の知識を試してみませんか?
記事の内容を振り返りながら、3問のクイズに挑戦してみましょう!
【第1問】
経営事項審査(経審)の結果として示される、通称「P点」は、何のために利用されるものでしょう?
- 公共工事の請負金額の上限を定めるため
- 公共工事の入札に参加するための点数となるため
- 会社の資本金を増やすため
【第2問】
経審の評価項目である「経営状況(Y点)」を申請する際、国の登録を受けた外部機関に依頼する必要があるのはなぜでしょう?
- 依頼することで点数アップが保証されるため
- 財務諸表の作成代行を依頼するため
- 経審で唯一、外部の専門機関による分析が義務付けられているため
【第3問】
公共工事の契約に必要な「総合評定値(P点)通知書」の有効期間として正しいものはどれでしょう?
- 審査基準日から1年間
- 審査基準日から1年7か月
- 申請日から1年7か月